2020年10月
日本小児在宅医療支援研究会 代表理事 田村正徳
日本小児在宅医療研究会 家族連絡会 会長 野田聖子
1、設立の趣旨
我が国は世界一新生児の救命率が高い国です。新生児医療に限らず、医療の進歩は大変な勢いで進み、かつては治癒不可能な難病が、次々に治るようになり、夢の治療とも言える遺伝子治療も医療保険の中で行なわれるようになりました。しかも、そのような高度先進医療を全ての国民と、公的な健康保険の保険料を負担すればわが国で生活する外国人もほとんど無料で享受できる体制を創り上げました。これは、世界に誇るべきシステムであり、ある意味、これまで人類が夢見てきた医療体制と言えます。しかし、そのような医療の進歩は、かつては少なかった日常的に医療機器(デバイス)と医療ケアが必要な「医療的ケア児・者」を増やすことになりました。多くの患者が治療後、医療機器(デバイス)も医療ケアも無く、日常に戻る中、常に進歩し、途上のものである医療技術の避けることのできない宿命として医療的ケア児者の増加という問題が発生したのです。つまり、医療的ケア児者は、医療の進歩を支える存在とも言えます。当初、医療的ケア児・者は病院に留まり続け、NICU(新生児集中治療室)満床問題や、高度医療機関の新規患者受け入れ困難の問題を起こしました。しかし、今、医療的ケア児を地域、自宅に戻すことが当然になり、NICU(新生児集中治療室)満床問題は解決したとされています。しかし、今後の真に大切な課題は、地域に戻った医療的ケア児をどのように支えるかです。
しかし、医療的ケア児は、従来の子育てでは想定されていなかった医療的ケアが常に必要であり、現時点では、医療的ケア自体は、障害福祉サービスの対象にならないため、24時間の医療的ケアは全てが、家族の負担となっているのが実情です。
いまだ、医療的ケア児をもった親は、共働きを断念し、どちらかの親が、育児と介護に専念しなければなりません。さらに、家族での団らんばかりか、夜の睡眠すらも確保できなくなります。また、きょうだいたちにも多大な負担が発生し、親と二人きりで過ごす時間も、家族でのお出かけや旅行も、場合によっては経済的困難さゆえに、進学も断念せざるを得ない場合があります。
医療的ケア児・者本人も、たとえ十分な知的な能力があっても、学校に通うことや、友人と交流すること、様々な場所に行き、年齢相応の体験を積むこともできないのが現状です。
たとえ、どんな障害がある子どもを授かっても、安心して子育てができ、仕事も続けられ、子どももその可能性を十分に開花できる教育を受けられてこそ、我が国の重要な課題である少子化の問題は改善するのです。それに加え、医療的ケアを必要とする子どもであっても、将来社会人として立派に成長できるような支援の体制を作ることは、私たち大人の責務と言えます。
現在、医療的ケア児者と家族が置かれた困難な状況を打開するためには、子育ては単に親の責任ではなく、社会全体で担っていくものであるという社会の意識の変化と、医療的ケア児者支援を、障害福祉の枠組みから、子育て支援の枠組みへとシフトさせていくことが必要と考えます。
そのためには、制度による支援を得にくい医療的ケア児者を、「医療的ケア」という考え方で一つにつなぎ、医療的ケア児者が生きやすい社会を作り出す大きな力へと結集させていく必要があります。
小児在宅医療支援研究会 家族連絡会はそのために、医療的ケア児者を支援する医師、看護師、リハビリセラピスト、福祉職の学習と研鑽、相互交流のために生まれた「小児在宅医療支援研究会」の中に結成されました。
2、小児在宅医療支援研究会 家族連絡会の目的
① 制度による支援を得にくく、様々な障害者団体にばらばらに所属している医療的ケア児者を、「医療的ケア」という共通項で一つにつなぎ、医療的ケア児者が生きやすい社会を作り出す大きな力へと結集させていく
② 毎日の生活の中で、「医療的ケア」ゆえに差別や、様々な困難に遭遇した方々が相談でき、解決の糸口を見いだせる相談窓口になる。
③ 発生した問題を蓄積し、国や地方自治体の支援に活かす方法を模索する。
以上